シンキロウの大人の化学

シンキロウによる化学雑記。普段化学に親しみのない方に身近にある化学から高尚な化学まで偏見を交えて伝えたい

元素の話③ 元素の誕生、金は少ない

元素の話の最終回。最後は元素はどうやってできたのかそしてどれだけあるのかについて

 

元素の誕生

 

宇宙ができたときは水素ばかりだったらしい。水素原子は陽子というプラスの電荷を持つ粒一個でできた原子核とマイナスの電荷を持つ電子一個からできている一番小さな原子なんだ。電荷というのは電気の量と考えてもらえればいいかな。ちなみに原子は原子核のプラスの電荷とまわりにある電子のマイナスの電荷が釣り合った状態なんだ

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話を戻す。宇宙空間で水素は万有引力 (重力) によって集まって大きなかたまりになり、強い圧力で水素は原子核融合反応をおこし輝き始めた ― 星の誕生だ。星は核融合により莫大なエネルギーを放出する。ちょうど太陽のように


この星の輝きの裏で新しい元素が誕生し始めていた。水素の次に重い元素ヘリウムだ。そうやって星の中では水素がどんどんヘリウムになっていったんだ。

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でもそんな星にもいつかは寿命がやってくる。大きな星は最後に大爆発を起こして超新星となって寿命を終える。でも元素誕生の歩みは終わらなかった。爆発のすさまじいエネルギーでさらに重い元素が生み出されていったんだ。やがて宇宙に散らばった元素たちはまた集まり始めて星になっていった。星の誕生と終焉を何度も繰り返してどんどん重い元素が作られていったんだ。地球はいくたびもの星の誕生と終焉を経てできたんだろう。そして私たちの体も


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地球の元素

宇宙には水素とヘリウムがたくさんある。惑星のような硬い元素からできた星もあるけど、多くは太陽のような恒星やガスなんだ (注)。じゃあ地球上ではどうだろう?空気は窒素分子 N2 78%、酸素分子 21%、ネオンNe 1% から構成されているので元素としては窒素、酸素、ネオンの順だ。海はほとんどが水なので水素と酸素が主な元素だ。大地は地表から数十キロの間までの地殻という部分は岩でできている。岩を作る元素は多い方から酸素、ケイ素、アルミニウム、鉄の順で存在していると言われている。これはクラーク数と呼ばれている。さらに地球の内部は鉄やニッケルなどの重い元素が主体と考えられている
(注) ダーク・マターと呼ばれるものもある


さっきヘリウムは宇宙にはたくさんがあるといったけど地球上にはあまりないんだ。名前もギリシャ語で太陽を意味するヘリオスに由来して、もともとは太陽にある元素だと考えられていたんだ。でもアメリカとカタールでわずかながら産出している。ヘリウムにはいろんな用途があるけど、冷却剤として重要なんだ。冷やすといっても氷やドライアイス (-78 ℃) よりずっと低い −269 ℃!絶対温度でいうと 4 ケルビン科学研究に必要不可欠なものなんだ。でもヘリウムは最近世界的に供給が不安定になっていて価格が高騰しているんだ。だから高い声を出すために使うのは感心しないね


元素の話①錬金術について話したけど、原子番号 79 番の金は昔から高価な金属だった。きれいな黄色 (もちろん金属光沢がある)で、錆びなくて、あまり存在しないことが理由だ。多くの金属は空気にさらされると錆びてしまうんだけど、金やプラチナのような貴金属は錆びにくいんだ。それに地球上に存在する量も本当に少ない。人類の歴史が始まってから掘り出された総量は国際基準プールに4杯分しか存在しないんだ (→田中貴金属)

これは重い元素全般にいえることで、超新星爆発を経ないとできないことからもわかるね。

 

最近発見されている元素は自然には存在しないものが多くて、そのほとんどは加速器と言われる大きな設備で作られている。前に化学では元素は作れないと言ったけど、これは化学じゃくなくて原子核物理学なんだ。でもその気になれば錬金術では不可能だった金を作ることもできる。ただ量があまりにも少ないので採算は取れないけどね

元素の話② 化学の聖典「周期表」

周期表って見たことあるかな?元素を並べた表なんだけどじつは重要な意味を持っているんだf:id:shinquirau:20200321180900j:image

元素と周期表

古い話だけど「おれは直角」ってアニメのOPの歌詞に♪すいへーりーべーぼくのふねー♫というフレーズがあった。実はこれ、元素を暗記するための語呂合わせなんだ。地域ごとにパターンがあるんだけど、シンキロウが高校生だったときはすいへーりべーぼくのふね そーだまがーる しっぷすくらーくか すこっちばくろーまん てこにどあだった。わかりやすく書くと水兵 liebe 僕の船 操舵曲がるシップスクラークか スコッチ馬喰マン 梃子にドア。もちろん意味はない。これを元素記号にするとH He Li Be B C N O F Ne Na Mg Si P S Cl Ar K Ca Sc V Cr Mn Fe Co Ni Cu Zn。1番目の水素から横に向かって読んでいくんだ。ちなみに周期表の横の行を「周期」そして縦の列を「族」という。そして同じ族の元素は似た性質を示すんだ。


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周期表に最初に気づいたのはメンデレーエフ (1834-1907) というロシアの化学者なんだ。メンデレーエフは似た性質の元素を並べていくとある一定の規則があることを見つけた。当時はまだ未発見の元素がたくさんあったんだけど、周期表の埋まっていない所に新しい元素があるはずだと予言したんだ。実際に彼の予言にしたがって多くの元素が発見された。ちなみにメンデレーエフは一番美味しいウォッカのアルコール度数を見つけたと言われている。この話は嘘らしいんだけど、ロシアではメンデレーエフグレードのウォッカが売られているんだ。シンキロウもロシアで飲んだことがある。たしかアルコール度数は 54 度だったと思う。


余談になるけど、ロシアの人はウォッカがとても好きなんだ。ちゃんとした会食のときもワインのグラスの他に小さなウォッカグラスが用意されるくらい。でも最近の若い学者さんたちはあまり飲まないみたい。シンキロウの友人の化学者もあまり飲まない。彼は子供の頃ソビエト連邦の崩壊でお父さんが国営農場をクビになってお酒におぼれて大変だったからと言っていた


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話を戻そう。同じ族の元素は似た性質を示すことはさっき言った。以前の記事 (地球外生物を化学する 炭素とケイ素) で炭素とケイ素は似た性質を持つと言ったけど、この二つの元素は同じ 6 族なんだ。わかりやすいところを紹介するね


18 族 希ガス

He ヘリウム

Ne ネオン

Ar アルゴン

Kr クリプトン

Xe キセノン

Rn ラドン

Og オガネソン

 

この族の元素はどれも他の元素と反応しない。そして気体なんだ。誰ともつるまない高貴な気体ということで、英語ではノーブル・ガス (貴ガス) という。希ガスの中でヘリウムは水素の次に軽い元素なんだけど、水素と違って何とも化合物を作らないので軽すぎて宇宙に逃げていってしまう


17 族 ハロゲン

F フッ素

Cl  塩素

Br 臭素

I ヨウ素

At アスタチン

Ts テネシン

 

この族の元素は他の元素から一個電子をもらって一価の陰イオンになりやすい性質を持つ。例えばハロゲンのひとつ塩素はナトリウムと反応して塩化ナトリウムになる。塩化ナトリウムは水に溶かすとナトリウムイオン  Na+ と塩化物イオン Cl- になる。ちなみにハロゲンのハロは古代ギリシャ語で塩を意味するハラス ('άλας) から来ていて、ハロゲンは「塩の素」って意味なんだ


1 族 アルカリ金属

H 水素

Li リチウム

Na ナトリウム

K カリウム

Rb ルビジウム

Cs セシウム

Fr フランシウム

 

ハロゲンとは反対に他の元素に電子を一個あげて一価の陽イオンになりやすい。上で書いた塩化ナトリウムのようにね。この族は水素以外はみんな金属で水と激しく反応してアルカリ性の化合物になるんだ


メンデレーエフの頃と同じく周期表の上に新しい元素の存在が予測されている。それをもとに現在は現在も日夜新しい元素の探求が続けられている
 

元素の話 ① 錬金術が見つけた元素

ひとつの捉え方として化学は元素のサイエンスといえる。というわけで今日は元素のはなし


元素と錬金術

物質をどんどん分解していってそれ以上は分けることができないものを元素というんだ。英語ではエレメント (element)。2020年3月現在までに水素からオガネソンまで 118 個の現祖が見つかっているんだ

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これ以上分解できないものとして原子というものもある。これは元素とほぼ同じような意味合いで使われることが多いんだけど、原子ははっきりとした粒を指すのに対して、元素はぼんやりした概念を指すことが多いんだ。水の構成を例にとると

  • 水分子は2個の水素原子と1個の酸素原子からできている
  • 水は水素と酸素の2種類の元素からできている

という感じかな?

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この世界の物質はすべて元素から構成されている。物質をあつかう化学は元素の上に立つサイエンスなんだ。そして化学は元素の探求から発展してきたといえる


物質の根源である元素の探求は洋の東西を問わずはるか昔から行われてきた。西洋ではすべてのものは地水火風の四大 (しだい) と呼ばれるものからできていると考えられた。似たようなもので中国では木火土金水というものが考えられた。これは曜日や惑星の名前に残っているね。でも地水火風木火も土金水も元素というよりどちらかというと性質を表しているかな。


今で言う元素に近いものは今から 2500 年ほど前に栄えた古代ギリシャ文明で考えられ始めたんだ。
ターレスはすべての源は水と考えた。その後空気を元素と考える哲学者が現れたけど、デモクリトスという人至ってはじめて原子 (アトモス) の存在が提唱されたんだ。アトモスはこれ以上分けることができないものっていう意味で、英語で原子を意味するアトムのもとになったんだ。でもその時点では現在のようなたくさんの種類の原子つまり元素の存在まではわからなかった。その後長い年月の間に忘れられていった


その後、西洋では金 (ゴールド) を作る研究である錬金術が発展し、中国では不老不死の薬を作る煉丹術が行われた。両方とも鋼の錬金術師に出てくるから名前を聞いた人は多いと思う。実はシンキロウもファンなんだ。でも実際には錬成陣を使ったりするんじゃなくて今の化学実験みたいなことをしてたんだ。長い年月に渡る錬金術師の努力でいろんなものが生み出されてきた。例えば中世のアラビアではアルコールが蒸留によって分離されたし、中国では火薬が発明された。今でも使われている化学実験器具も錬金術師が作ってきたものに端を発するんだ。


でも結局誰も金や不老不死の薬は作れなかった。不老不死の薬は遺伝子工学が発展すれば作れるかもしれないけど、金は錬金術では決して作ることはできない。それはね、金は元素だからなんだ。化学は元素をもとにしている。ということはもとになっている元素を作ったり壊したりすることはできないんだ。それが明らかになったとき錬金術は化学になったんだ


金を作るという意味では錬金術は成功しなかった。でもなぜ金を作ろうと思ったのかを考えると見方は変わってくる。身の回りを見渡してみるといろんな化学製品に囲まれている。金属、プラスチック、化学繊維、食品、お薬…その数は数え切れない。どれも金ほどの価値はない。でも金なんかより生活を豊かにしてくれるから金よりもずっと価値があるとも考えられないかな。そういった意味では錬金術は成功したとも言えるのかもしれない。もしかしたら化学は現在でも錬金術でありつづけているのかもしれない

電子レンジを化学する

最近は化学反応にも電子レンジが使われることがある。ところで電子レンジでなぜものは温まるのだろう?今日は電子レンジを化学する


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電子レンジ = マイクロ波発生器

電子レンジに入れてチンするとお弁当は一分くらいで温かくなる。これをお湯やガスでやろうとすると時間がかかるし、下手したら焦げてしまう。そういえば電子レンジは中が熱くなったりしない。じゃあいったい何で温めているのだろう?答えはマイクロ波マイクロ波は電磁波、簡単に言うと電波の一種なんだ。電波は波のようなもので、1秒間に波打つ回数 (周波数) によって性質が大きく変わる。例えばFMラジオは超短波と呼ばれる約 80 メガヘルツ (ヘルツは周波数の単位でメガヘルツは百万ヘルツのこと)の電磁波を使っている。一方で電子レンジのマイクロ波は 2400 メガヘルツでずっと大きな周波数なんだ。マイクロ波はものを温めることもできるけど、携帯電話の通信にも使われている。2400 メガヘルツは別の呼び方で 2.4 ギガヘルツと呼ばれているよ

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マイクロ波は分子を回転させる

マイクロ波を物質に当てると、マイクロ波のエネルギーが分子の熱エネルギーに変換される。熱エネルギーは化学・物理的には分子の運動なんだ。分子が勢いよく動き回っているときは温度が高く、動きが遅いときは温度が低い。分子の運動には並進、回転、振動の三種類があって、よく電子レンジは水分子を振動させて温めると説明されることがあるけど、実はあまり正しい表現ではない。マイクロ波で起こすことができるのは回転運動。下の図の青い矢印がこれに当たる。振動は下の図の赤い矢印のような運動で、振動を起こすには赤外線エネルギーがいるんだ。実は赤外線も電磁波の一種。もっというと光は電磁波なんだ。そのエネルギーはマイクロ波なんかよりずっと大きい。水は赤外線を吸収するから温室効果に聞いていることは前に話したね (水を化学する)。そのエネルギーをマイクロ波のエネルギーと比べてみると4万倍以上大きいんだ。


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最近は化学反応にも電子レンジ、つまりマイクロ波を使うことがある。熱をかけるだけでは起こらないような化学反応もできる。大学の研究室だけじゃなく産業利用もされているんだ。化学は日夜進歩しているんだ


そういえば最近チンていう電子レンジ見なくなったなあ


 

それでもシンキロウは化学する

シンキロウはこのブログでわかりやすく読みやすく化学を伝えたいと思っている。でもわかりやすさとは何かと考えるとすべては霧の中である


世の中には優れた科学ライターがたくさんいて先端研究をわかりやすく紹介してくれている。でもかつて専門家だったシンキロウにも読んでて分かりにくい、入り込んでいけない記事は少なからずあった。内容は興味深いのに…。深く考えたことはなかったけど、理由を思いつくだけ挙げてみると

  1. 数式が多くていちいち定義を読まないといけない
  2. 専門用語を定義なく使っている
  3. 英語の略号が多くて出てくるたびに数行戻らないといけない

が考えられる。ライター諸氏もこのあたりに注意を払っていて「数式を使わない」を売りにしている書籍も多数ある。だけど本質はそこではない気がする


シンキロウも博士研究員をしていたときにいくつか解説文を書いたけどひどいものだった。ページ数いっぱいにとにかく専門用語を詰め込み、関連文献を引用しないといけないので脚注だらけ。で、文はぶつ切り。教授からはそれで良しと言われたんだけど、ゲラ刷りがきたときにはため息が出たね

 

以前、コラムニストの小田嶋 隆氏だったか、何かの記事で「日本語はやわらかい和語の上に固い漢語がのっている」と言っているのを見た


目で文を読み頭の中で再生する作業の中で、画数の少ないひらがなと画数の多い漢字のバランス、やわらかな音の和語といかめしい音の漢語のリズムがうまく合わないのが入り込めない大きな原因かもしれない。漢語が多すぎると読みにくいし、ひらがなばかりだと文章がじゃらけた感じになってしまう


わかりやすさを追求しマンガを多用した書籍も書店に並んでいる。でも読んでみると必要以上に冗長であったり、大人が手に取ってレジに進むには少し気恥ずかしい作りのものも多い。サイエンスの書籍は大学生・院生などの専門家向けと小中学生向けにニ極化しているように感じる


内容に関してもハデな実験や壮大なサイエンスが衆目を集めやすい。もちろんでんじろう先生の実験や相対性理論量子力学の特集はサイエンスへの門戸を開くという点では素晴らしいものだと思う。ただ壮大稀有なものでなくても身近な現象の裏にもサイエンスがあることを考えてもらうことも大切だと思う


シンキロウがいままでに感銘を受けたのは寺田寅彦随筆集だ。寺田寅彦 (てらだ とらひこ、明治11年昭和10年) は東京帝国大学の物理学者で随筆家文筆家。文体は現代人に比べて柔らかいとは言えないが、そこは漢文の素養ある明治時代の人。うまく言葉を運んでいる。内容も面白くて通勤電車が混まないようにするにはどうすればいいかなどと身近であり現代に通じる話題もある

 

寺田寅彦随筆集 セット (岩波文庫)

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科学者ではないけど、柳田國男遠野物語なんかも文体の簡潔さがいい。〜なり。〜といへり。という擬古文の流れが心に沁みる。明治の学者の力を感じる

 

遠野物語―付・遠野物語拾遺 (角川ソフィア文庫)

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シンキロウの力量では彼らの境地に達することはできないかもしれない。到達しようと考えることがおこがましいのかもしれない。それでも、それでもシンキロウは化学する

手洗いを化学する

外から帰ったらうがいと手洗い。とくに丁寧に手を洗うことで風邪は予防できるという。今日は手洗いを化学する


「手を洗う」とは?

あなたはどんなときに手を洗うだろうか?土や泥をさわったとき?汗や皮脂でベタつくとき?バイ菌やウイルスがついてるかもしれないから?これらの汚れを化学の目で見ると次のようになる


土やドロ・・・無機化合物や有機化合物
汗や垢、皮脂・・・おもに有機化合物
バイ菌、ウイルス・・・おもに有機化合物


じゃあ手を洗うときにしていることも分析してみよう


払う・ふき取る・・・物理的
水で流す・・・水に溶かす、化学的
石けんを使う・・・界面活性効果、化学的
アルコール・・・有機溶媒に溶かす、化学的


…ちょっと何を言ってるのかわからないかもしれない。一つずつ解説していこう


1. 払う・ふき取る

手にホコリがついたときにパンパンって払ったり、ゴシゴシこすって落とすよね。これは振動や圧迫による物理的な洗う方法だ。こするというのはツルツルの机の上に落ちた消しゴムかすを下敷きで集めるのを想像してほしい。これと同じように手についた汚れをもう一方の手の表面でかき取っているんだ。でもベッタリとした汚れはこれだけじゃ落ちない。水の助けも借りなければならない


2. 水で流す

普通洗うといえば水で流すことだね。でもなんで水を使うと乾拭きよりも汚れが落ちるんだろう?水がついたら摩擦が減って汚れが落ちにくくなるとも考えられない?ここで重要なのは水の化学的な性質である溶かすことだ。汚れを水で溶かすことで落ちやすくしているんだ。水の話で言ったように、水は実にいろいろなものを溶かすことができる。でも一番よく溶かすことができるのは無機化合物だ。無機化合物は石や金属みたいなもので土や泥はそれに有機化合物も混ざっている。無機化合物はプラスとマイナスに分極したり、イオンになったりするものが多いので水分子が集まってきてバラバラにしてしまう。これを水和といって、水和された状態を「水に溶けた」っていうんだ。さらに落ちにくい汚れはお湯で洗うことで落ちやすくなる。水の温度を上げると物質は溶けやすくなる。さらに皮膚が水を吸収して柔らかくなるので、こすることで古い皮膚ごと汚れが落ちる。でもそれでも落ちない汚れもある。そう油汚れだ


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3. 石けんを使う

油は代表的な有機化合物だ。普通「油」という言葉が指すものはワックスか脂肪。

ワックスは炭素原子と水素原子が繋がった鎖状の構造でパラフィンともいう (下の化学式がそのひとつ)

   CH3-CH2-CH2-・・・-CH2-CH3

ロウソクやワセリンの原料でもある。深海魚にもよく含まれていて美味しいらしいけど食べるとお腹を下すんだって。水には絶望的に溶けない。

 

一方、脂肪は脂肪酸 (しぼうさん) とグリセリンからできている。脂肪酸はワックスの先っぽにカルボキシル基 (カルボン酸) COOHがついたものだ。

  CH3-CH2-CH2-・・・-CH2-COOH
  酢酸  CH3COOH

ワックス、つまり鎖に当たる部分がCH3のものは酢酸 (さくさん) といってお酢の成分。レモンに入っているクエン酸なんかも仲間だね。グリセリンにはOHが三つのある。OHと聞いてピンときた?そうグリセリンはアルコールの一種なんだ。前にアルコールの話の最後の方にOHが二つ以上あるアルコールもあると言ったけどグリセリンもその一つなんだ。少しトロミがあって甘い味がする。保湿剤なんかに使われるから薬局でも売っている。

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化学的には脂肪はグリセリンのOHに三つの脂肪酸のCOOHがくっついた (脱水縮合という) もので、エステルと呼ばれる有機化合物の一種である。下の図で緑色の棒が脂肪酸で赤い部分はグリセリンだ。この鎖の部分はいろんな構造がある。リノール酸リノレン酸オレイン酸とか聞いたことあるるんじゃないかな?ちなみにステアリン酸C17H35COOHは牛の脂肪を構成する脂肪酸脂肪も壊滅的に水に溶けない。


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そこで登場するのが石けんだ。石けんの化学的な構造はワックスような鎖状構造の先っぽにCOO-Na+というイオンがついている

  CH3CH2CH2-・・・-CH2-COONa

これを水に入れると水を嫌う鎖状の部分が内側になり、水と親和性があるイオンの部分が外側を向いた球になる。これをミセルという (下の図がミセル。石けんが球状に集まっている。水色の玉は水分子)。これを汚れた手につけてこすると油汚れ、つまり有機化合物と鎖状の部分は親和してくっついてイオンの部分を水中に向ける。イオンの部分は水和するのでこのかたまりは水に溶ける。これが石けんの働きだ。こういう性質を持つ物質を界面活性剤っていうんだ。

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でも固まった油は石けんでもなかなか落ちない。例えば冷えたフライパンなんかは洗剤で洗っても油が固まってなかなかキレイにならない。そんなときは熱いお湯を注いで油を融かして液体にしてから洗うとよく落ちる。でもシンキロウは油を流しに捨てることは環境保護のためにオススメしない。そんなときは油から固まる前にペーパーでふき取ってゴミ箱に捨てるとよい。油は有機化合物なので燃えるゴミだしね。


ところで石けんの構造って何かに似てない?実は石けんは脂肪酸のナトリウム塩なんだ。作り方は脂肪をアルカリで加熱する。油汚れを落とすのに使う石けんを油から作るって面白いよね


余談になるけど、アルカリ温泉に入ったとき肌がヌルヌルしたことはないだろうか?これはアルカリで皮脂の一部が石けんになるためといろんなところに書いてある。でも40度程度の熱さと弱アルカリ性で脂肪のエステル結合が分解されて石けんになるとはシンキロウには考えにくい。元々皮膚に少し存在している脂肪酸が石けんになっているんじゃないかと思うんだ


4. アルコール

アルコールは有機溶媒なので有機化合物をよく溶かすことができる (似たものは似たものを溶かす)。だから油や油性ペンの汚れも落とすことができるんだ。それに除菌にもよく使われる。よく殺菌や滅菌していると言われる。たしかに細胞やウイルスをブッ壊すこともできる。でもアルコールシートで手を拭くときはバイ菌やウイルスを皮脂ごと溶かして皮膚から剥がしてふき取るのがメインだと思う。ところでアルコールで洗うときには間違ってメチルアルコールを使っちゃだめだよ。それとアルコールの使いすぎにも注意。有機化合物をよく溶かすので皮脂を溶かして皮膚の細胞もダメージを受けやすいからね。


でもアルコールは化学の世界ではあまりよく溶かす溶媒とは考えられていないんだ。アルコール以上に有機化合物をよく溶かす溶媒で身の回りにはあるのはアセトンや酢酸エチルだ。除光液なんかによく入っている。でもよく溶かすことができる分アルコール以上に爪も皮膚もカサカサになるから要注意だ


 

水を化学する

水、みず、water ー あまりに普通すぎて意識することは少ないけど化学的にはとてもすごい物質なんだ


水を化学する

水について書こうと思ったけど、一大テーマになりそうで気が遠くなる。とにかく特殊な物質なんだ。そしてその特殊さが地球に生命の誕生と反映をもたらしたしたといえる。今回はシンキロウが興味あることについて偏見を交えて書いてみようと思う


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1. 沸点と融点が異常に高い

水が 摂氏100 度で沸騰して摂氏 0 度で氷になるのは常識だね。でも本当は逆で、摂氏温度 ℃ の方が沸騰する温度を 100 度とし、凍る温度を 0 度とすると決められているからなんだ。だからアメリカで使われている華氏温度 °F ではまったく違う温度になってしまい混乱する。サイエンスでは絶対温度 K (ケルビン) を使う。絶対温度零度はマイナス273.15 ℃。聖闘士星矢に出てきたアクエリアスカミュが使ってたオーロラエクスキューションで到達できる温度である


話を戻そう。水の沸点と融点は異常に高い。異常にとはどういう意味なんだろう?理解するためにまず沸騰と凍結について考えてみよう。水は氷ー水ー水蒸気の三つの状態をとる。一般的には固体ー液体ー気体と呼ばれる。これは多くの物質でも同じである (固体や液体状態を持たないものも存在する)。


水は酸素原子に2個の水素原子がくっついた分子でエイチツーオー (H2O) ともいう。この水分子がお互いにくっついて固まった状態、これが固体、つまり氷だ。ガッチリくっついているから固い。氷を温めると水分子が振動しはじめる。ちなみに熱というのは分子や原子の振動のことだ。この振動が大きくなるとガッチリと固まっていた結合がゆるくなって水分子が動き回れるようになる。この状態が液体の水だ。さらに温めると水分子の振動はどんどん大きくなり、やがて分子同士がバラバラに飛んでいく。この状態が気体、水蒸気なんだ。固体から液体に変わる温度を融点または凝固点、液体から気体に変わる温度を沸点という


この三つの状態を決めているのは分子間の引力なんだ。普通の有機分子ではファンデルワールス力 (りょく) が主要な引力である。この力は分子の重さ (分子量) に応じて強くなる。つまり重い分子ほど沸点も融点も高くなるんだ。でもね、水分子の分子量では水の沸点と融点の異常な高さは説明できないんだ。周期表で同じ行にある炭素Cと水素からなるメタンCH4と窒素Nと水素からなるアンモニアNH3を比べてみると下のようになる


             分子量  融点  沸点      

メタン   CH4  16          -182.5℃    -161.6℃
アンモニア NH3  17            -77.7℃   -33.3℃
水     H2O  18                   0℃        100℃


見ての通りメタンに比べてアンモニアは沸点・融点がぐっと高くなっており、水はさらに高いことが分かるね。この原因は水素結合なんだ。水分子は折れ曲がった形をしている。水素原子はプラスの電荷を持っていて、反対に張り出している電子 (青い粒) はマイナスの電荷を持っている。こんなふうに分子内でプラスとマイナスに別れた状態を分極っていう。だからもう一つの水分子が近づいてくると下の図の緑線のように電気的な引力でくっつこうとするんだ。これが水素結合なんだ。この力がとても強い。だから沸点と融点が高くなっているんだ


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2. 比熱、潜熱が大きい 
よく水は熱しにくく冷めにくいっていうよね。たとえば空のナベをガスコンロにかけるとすぐにチンチンに熱くなる。でも水を入れると中々に沸かない。これは金属に比べて水が温めにくいってことなんだ。ここで、比熱が重要になってくる。比熱は物質を1℃温めるのに必要な熱エネルギーの量。同じ温度上げるのにより多くの熱エネルギー、ガスコンロでいうと加熱時間が必要なんだ。この冷めにくい性質は地球環境の温暖化にとても役立っている。もし海が太陽が沈んですぐに冷めてしまうと生き物は夜のうちに凍えてしまう。


水が氷や水蒸気になるとき大量の熱エネルギーを吸収または放出するんだ。このエネルギーを潜熱っていう。簡単に言うと


氷が溶けるときに熱を吸収する (融解熱・凝固熱)
水蒸気が水になるときに熱を出す (蒸発熱・凝縮熱)

 

なので0度の水で冷やすより0度の氷で冷やすほうがよく冷えて、100度のお湯で温めるより100度の水蒸気で蒸すほうが効率が良くなるんだ。でもね言い方を変えるとお湯よりも水蒸気でヤケドするほうが危ないことを覚えておいてね


3. 温室効果
温室効果地球温暖化の原因としてよく知られている。その代表物質として二酸化炭素CO2やメタンCH4がよく知られているけど、実は水蒸気も大きな原因の一つなんだ。二酸化炭素と水蒸気は赤外線を吸収する性質を持っている。吸収した赤外線のエネルギーは分子の振動に変わる。さっき言ったように、分子の振動 = 熱エネルギーなので熱くなるんだ。さらに比熱が大きいのでなかなか冷めない。だから温暖化は進んでいくんだ


4. いろんなものをよく溶かす
これはさっきの言ったように分極と水素結合が大きく効いているんだ。化学では似たものは似たものを溶かすと言われる。水は無機化合物。だから食塩みたいな無機化合物はよく溶かす。でもね有機化合物も溶かすことができるんだ。代表的なもの糖類やアミノ酸、タンパク質など。もうわかるよね。この地球で生命が誕生したのは水のおかげなんだよ


5. その他


・水の色
水の色は何色と聞かれたらどう答える?透明?ちがう。透明は色の名前じゃない。透明の反対は不透明。じゃあ何色?答えは水色。ふざけているのかと思われそうだけど、本当にあの水色なんだ。お風呂を溜めてみると少しわかる。それよりも海の色を見れば納得できるだろう。普通色の原因は分子の中の電子が絡んでるんだけど、水くらいの分子ではそれは期待できない。水の色は赤外線を吸収する分子の振動が関わっているんだ。あまり細かいことを言うとややこしくなるので、とにかく水は水色なんだ


DHMO
ジハイドロジェン モノオキサイドの略。日本語でいうと一酸化二水素。OH2。つまり水。もちろん正式な名前じゃない
実はこれ、アメリカの学生が行った冗談のような調査なんだ。一般の人にDHMOは危険だと説明してどこまで騙されるかっていう調査。
DHMOが多すぎると危ない…洪水
DHMOがないのも危険…干ばつ
・犯罪者の尿には多量のDHMOが含まれている
などなど。面白いから調べてみてほしい


最後に化学では水という言葉にいくつかの用語を使う。それを紹介して終わりにする。


'υδωρ (hydor ヒュドール) 古代ギリシャ
hydro- (ヒドロ  英語読みハイドロ) とつくのはこれがもと。カーボハイドレートなら炭水化物、ハイドロジェンなら水素 (hydro + gen = 水の素) 


aqua (アクア) ラテン語
アクエアス・ソリューションで水溶液 (aqueous solution 水の溶液) 、化学とは関係ないけどアクアリウム (水族館)やアクエリアス (水瓶座) なんかも同じ。最後にアクエリアスに戻ってきたよ