シンキロウの大人の化学

シンキロウによる化学雑記。普段化学に親しみのない方に身近にある化学から高尚な化学まで偏見を交えて伝えたい

オシッコにまつわる化学

突然だけどシンキロウは古代ローマが好きだ。小さい頃から星が好きでギリシャローマ神話に関心があったんだけど、ローマ人の物語に描かれるローマ男に対する溢れる愛情に強烈に感化されてしまった。他にもテルマエ・ロマエプリニウスなんかもいい。映画の阿部寛氏も好演だった


好きなもの同士を繋げてみたいのが人の心。というわけで無謀にも古代ローマにまつわる化学の一端について記してみようと思う

 

古代ローマでは人間のオシッコで洗濯していた

のっけから汚い話になって恐縮だけど、古代ローマでは人間のオシッコを洗剤に使っていたそうだ。オシッコつまり尿の主成分は水と尿素。タンパク質やアミノ酸などの窒素原子を含む栄養素を体内で分解するとアンモニアが発生するんだけど、アンモニアはとても毒性が高いので体内で安全な尿素に変換するんだ。尿素は保水力が強いので肌の保湿剤に使われたり、水を吸収すると周りから熱を奪うので冷却剤にも使われることがある物質だ

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古代ローマの洗濯屋さんは尿を使って洗濯していたようだけど、尿素そのものを使っていたわけではなく尿素を分解して発生させたアンモニアを利用していたのかもしれない。この分解には微生物か酵素か熱が関与しているのかわからないけど、おそらく分解されて2分子のアンモニアと1分子の二酸化炭素になるはずだ。アンモニアは弱アルカリ性なので水で落ちにくい油汚れを石けん代わりに落としてくれるのだろうが多い (→手洗いを化学する


尿は植物の肥料としても利用されてきた。植物の成長にとってタンパク質やアミノ酸を構成する窒素原子が不可欠なんだ。窒素はN2として空気中にたくさんあるんだけど反応性に乏しくて利用しにくい。だからマメ科植物なんかは窒素固定菌と呼ばれる窒素化合物を作り出す細菌を体内に共存させて窒素原子を取り入れている。田植え前にレンゲソウが一面に生えているのを見たことがあるかな?これはマメ科レンゲソウの窒素固定を稲作に利用しているんだ。他にもカミナリの多い年は稲が豊作になると言われるけど、これも雷の放電で空気中の窒素分子から硝酸が作られて地表に降り注ぐためだとも言われる。だからイナヅマは稲妻、稲を育むと言われるとかなんとか。でもどれも年に何度もできるようなものじゃない。尿の利用は年を通して安定的に窒素を供給できるのが利点だ。もちろん窒素源になるのは尿素だね。日本では江戸時代から使われていたらしい。資源の少ない国ならではのエコロジーだね

 

最近では尿ではなく化学的に合成した肥料を使っている。代表的なものは硫酸アンモニウムだろうか?田園地帯に住んでいる人なら田んぼの畦に硫安と書かれた袋を見たことがあるかもしれない。これが硫酸安母 (りゅうさんアンモ) なんだ。ただ、これを使うと硫酸イオンが土中に残ってカルシウムイオンと結びついて硫酸カルシウム=石膏を生じるので土が硬くなってしまう欠点もある

 

話は古代ローマからドイツ帝国

古来ヨーロッパは地味が痩せていて農業生産性が低かったらしい。気候的な問題もあるかもしれないけど、コムギの生産量はことに低かった。アニメハイジでもコムギから作られた白パンをおじいさんに食べさせたいとしまい込む話があるくらいだ。そのため肥料が不可欠だった。ドイツは世界に先駆けて肥料のもととなるアンモニアを化学的に合成することに成功した (ハーバー・ボッシュ法)。この反応は今でも大学の化学では基本的な反応として教えられている。こうした背景もあり、ドイツは化学先進国としてまたたく間に列強諸国に名をつられることとなった。でもこのアンモニア合成には裏の面もあった。肥料だけに使われていれば平和だったんだけどアンモニアを硝酸に変換することで、火薬の原料硝酸カリウムができるんだ


ちなみに日本でも尿から硝酸カリウムを作っていたんだ。硝酸菌を使って自然に尿を分解して作っていたらしい。こちらは種子島 (火縄銃) や花火に使われていたようだね。化学なんて体系的な学問のなかった時代の人たちの慧眼にははなはだ敬服する

 

ローマにまつわる化学としてこの他にも以下のようなトピックがあるんだけど、長くなりすぎたのでまた次の機会に
・ぶどう酒の醸造
・高貴な色「紫」
・鉛の水道管と鉛化合物の甘味料
・魚を発酵させた調味料 ガルム
・真珠を酢で溶かして飲む
最後のはエジプト女王クレオパトラのエピソードだけどローマと関わりが深い人だったので入れておく