シンキロウの大人の化学

シンキロウによる化学雑記。普段化学に親しみのない方に身近にある化学から高尚な化学まで偏見を交えて伝えたい

地球外生物を化学する 炭素とケイ素

昔読んだ「コスモス」というSF小説には奇妙な宇宙生物が描かれていた。石のような鉱物状生物、風船のような気体状生物。なかでも炭素をケイ素に置き換えた生命体は本当に有り得そうで高校生のシンキロウはとても面白く感じた

f:id:shinquirau:20200225173718j:image

多様な生物の可能性

地球は奇跡の惑星と言われる。生物の誕生と進化に不可欠な適度な温暖さ、十分な酸素、なによりも液体の水が存在する。また有害な紫外線を防いでくれるオゾン層の存在や苛烈な太陽風からの守ってくれるバン・アレン帯もある。これだけ恵まれたまさに奇跡の星だからこそ生物は誕生したと思われてきた。

 

でもね、実際には温泉から湧き出る硫化水素を呼吸する生物もいるんだ。硫化水素は人間を含む多くの生き物にとって猛毒なんだけど、硫化水素を吸う生き物にとっては酸素の方が毒なんだ

 

それに最近では生命の源は宇宙にあると考える研究者もいる。地球外からやってきた隕石や小惑星に生命の源となるアミノ酸や糖が存在しているという

 

これらのことから生命が誕生し進化するのに地球環境は必ずしも必要ではないんじゃないかと思えてくる


コスモスカール・セーガンという科学者によって書かれたSF小説である。地元の市立図書館で借りて読んだ。20年以上前のことなのでうろ覚えだけどとても印象的だったのを覚えている。その中に地球とは大きく異なる環境でも様々な生物が存在すると想像されていた

 

 

COSMOS 上 (朝日選書)

COSMOS 上 (朝日選書)

 


地球よりもはるかに寒く液体の水が存在しない惑星、例えるなら準惑星冥王星みたいな星には、石のような体をもつ鉱物状生物が生息する。彼らの体は水晶のような結晶で少しずつゆっくりと成長していく
f:id:shinquirau:20200225173000j:image
一方で木星土星のようなほとんどが気体でできた惑星には、深い雲の間に漂うように気体状生物が暮らす。彼らは風船のような体をもつf:id:shinquirau:20200225172816j:image
なかなか現実感が少ない。でも次に述べるケイ素生物は一見すると現実的だ。


場所は地球とよく似た星。でも何らかの理由で炭素の代わりにケイ素が生物に利用されているという

 

ケイ素 (珪素、シリコン、silicon)

元素記号 Si原子番号 14 番。地球上には酸素の次に多い元素で様々な鉱物として存在している。身の回りを見渡しても、たとえば窓に使われているガラスは二酸化ケイ素という物質からできているんだ。これが自然に産出するものだと水晶や石英と呼ばれている。また精製したケイ素は金属みたいな銀色の物質で半導体として電子機器に使われている。今書き込んでいるスマホにもね。


このケイ素、化学的には炭素にとても良く似ている。周期表と呼ばれる元素を並べた表がある。これはただ並べただけではなくて意味がある。たとえば同じ縦並びの元素は似た性質を持っているんだ。見てのようにケイ素は炭素のすぐ下なので良く似ているんである。


f:id:shinquirau:20200225170710j:image


だったら有機化合物の炭素をケイ素で置き換えることは可能性なんじゃないか?カール・セーガンが想像したケイ素生物は存在するんじゃないか?と思えてくる


けどそうはいかないんだ。地球の生物の体を作っている有機化合物は炭素と炭素の結合 CーC と炭素と水素の結合 CーH で作られている。この2種類の結合はほぼ同じ強さでそれこそが重要なんだ


反対にケイ素と炭素結合 SiーC、ケイ素と水素の結合 SiーH はそんなに強くない。むしろ弱い。これは化合物の骨格を作るのにとってとても不利な性質なんだ。その原因は結合に関与する原子軌道のエネルギー差による。とにかく、そのおかげでケイ素でできたエタノールアミノ酸は存在しない。よってケイ素生命体が存在する可能性はとても低いと言える。逆に言えば炭素と水素の結合の強さのバランスこそが生命誕生を導いた奇跡かもしれない


でも現在の科学、観測技術ではわからないだけで宇宙のどこかにケイ素や他の元素が炭素の代わりを果たしている生命が存在するかもしれない。私たちの知っている世界はまだまだ狭いのである