料理の「あんかけ」を化学する
シンキロウは中華料理が大好きだ。王将なんかの庶民的なやつなんだけどね。いまやすっかり日本に定着した中華料理。その特徴はなんといっても強力な火力、たくさんの油、そしてあんかけだろう。今日はあんかけの化学を見てみよう
あんのとろみはデンプン
自炊している人は知っていると思うけどあんかけのとろみはかたくり粉で作る。アツアツの鍋に水溶きかたくり粉をたらしてゆっくりかき混ぜるととろみがついてくる。このとき鍋の中で何が起きているんだろうか?
かたくり粉は白い粉で袋の上から揉むとキュッキュッとして気持ちがいい。これはブリーフ&トランクス「かたくり粉」って歌に面白く描写されている。もともとはカタクリという植物の根から採られていたみたいだけど、今はジャガイモから製造されているようだ。かたくり粉の主成分はデンプンなんだ
デンプン
デンプンはお米や小麦そしてお芋さんに含まれている栄養素で生物活動の主要なエネルギー源だ。化学的にはブドウ糖分子が直線状にたくさんつながった高分子といわれる有機化合物なんだ。
ブドウ糖は炭素と水素と酸素からできている分子で、化学式では C6H12O6 と書ける。これを組みなおすと C6 (H2O)6 となり炭素原子が6個と水分子が6個と書ける。炭素が水分子と化合したものと考えることができるので、ブドウ糖やその高分子であるデンプンは炭水化物というんだ
とろみは高分子の絡み合い
ブドウ糖分子は水に親和する部分が多いので水によく溶ける。けどデンプンは水と親和性の高い部分が分子内と分子間でがっちりとした水素結合を作っているので水には溶けない。水に入れてかき混ぜてもほっておくと沈んでくる。あんまり固まっているので食べても消化できないんだ
でも熱をかけていくと分子内と分子間での水素結合の間に水分子が入り込んできてデンプンがばらけて長い鎖状になる。その鎖同士が絡まって粘り気が出てくるーあんだ。とろみの正体はデンプン分子の鎖の絡み合いが原因なんだ。ちなみにこの状態になることをアルファ化といって食べても消化できるようになる
話がそれるけど、デンプン分子の絡み合いはご飯とお餅の違いにも影響している。普通のお米にはアミロースという一本鎖のデンプンがたくさん含まれている。その反対にもち米にはアミロペクチンという枝分かれしたデンプンが多い。枝分かれが多い分絡み合いが大きくなるので粘り気が強くなるんだ。ちなみにこの状態を糊化という (※)。糊は接着に使うノリのこと。昔はご飯粒をノリにつかっていたんだ
※糊化の説明を間違えていたので訂正 (2020/05/19)
あんかけ料理が冷めていくと粘り気が強くなってくる。分子の振動が小さくなっていくので分子間の結合が強くなっていくからだね。ご飯なんかは透明感がなくなってパラパラになってくる。これはデンプンがまた分子同士で固まり始めたからなんだ。これを老化という
あれ?とろみが・・・
あんかけソバでも天津飯でもいいんだけど、食べている途中でとろみがなくなっていった経験がないかな?これはレンゲについたツバが原因なんだ。デンプンはブドウ糖がつながったものなんだけど、ツバに含まれている消化酵素はその結合を切っていくんだ。切れて短くなった鎖は絡み合いもなくなる。だからとろみがなくなってしまうんだ。結合を切られたデンプンは麦芽糖やブドウ糖になっていく。ごはんをよく噛むと甘い味がするのはこのためなんだ
あんかけの中にも化学が潜んでいることがわかっていただけただろうか?でもあんかけを最初に思いついた人はすごいよね。これがなければ天津飯やカニ玉もなかったんじゃないだろうか?
ときどきシンキロウは不思議に思うんだけど、日本は中国から何千年にも渡っていろんなものを取り入れてきたのに、なぜ中華料理は明治時代まで普及しなかったんだろう?遣唐使を派遣していた時代の料理は今の中華料理とは違ったのかもしれないけど、清の時代の満漢全席なんかは今の中華料理そのものだし。江戸時代までの日本人の舌には合わなかったのだろうか?ほんとうに不思議だ