シンキロウの大人の化学

シンキロウによる化学雑記。普段化学に親しみのない方に身近にある化学から高尚な化学まで偏見を交えて伝えたい

ビールにまつわる化学

目に青葉 山ホトトギス 初ガツオ 

ビールがおいしい季節になってきた。というわけで今日はビールにまつわる化学でいってみよう


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アルコールとエネルギー

ビールで一番大切なのはもちろんアルコール、つまりエタノールだ。ビールの原料はおもにオオムギだけど、エタノールオオムギのデンプンを酵母で発酵させて作られる。酵母は微生物だ。でもデンプンはそのままじゃ発酵できないので一旦分解しないといけないんだ。あんかけの話で話したけど、デンプンはブドウ糖がたくさんつながった高分子だ。これを分解するためにオオムギを発芽させて麦芽にする。このときにできる酵素でデンプンが分解できる。デンプンは分解されるとブドウ糖ブドウ糖が2個つながった麦芽糖ができる。いよいよここからが酵母の仕事だ。酵母ブドウ糖を食べてアルコールに変換していく。その過程を化学式で書くと下のようになる

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ブドウ糖1分子からエタノール2分子と二酸化炭素2分子ができる。こうやってどんどんブドウ糖エタノールに変換していくんだけど、ある程度アルコール濃度が高くなると酵母が自分が出したアルコールで死んでしまうらしい。アルコールは除菌剤にもなるしね


酵母はわざわざ人間のためにアルコールを作ってくれるいい菌のように思えるけど、別にボランティアで働いているんじゃないんだ。酵母ブドウ糖を食べて生きていくためのエネルギーを取り出し、その残りカスとしてエタノールを排出しているんだ。つまりブドウ糖酵母のごはんで、エタノールは排泄物なのだ。

 

ところでブドウ糖にエネルギーなんてあるの?と思うかもしれない。そう思ってもらえればシンキロウとしてはしめたものだ。まずね、ブドウ糖だけが特別にエネルギーを蓄えているわけじゃないんだ。それどころかすべての化学物質はエネルギーを蓄えているんだ。エネルギーは物質の中で「化学結合」という形で蓄えられている。こうしたエネルギーは一般に「化学エネルギー」と呼ばれる。化学エネルギーは物質を燃焼させることでとして取り出すことができる。酵母の場合ブドウ糖の結合を切ってエネルギーを取り出し、残ったモノをエタノール二酸化炭素として捨てているんだ。酵母が手に入れたエネルギーはブドウ糖の全結合エネルギーからアルコール分子と二酸化炭素の結合エネルギーを差し引いた分だ。このエネルギーを使って酵母は生きていく。人間なんかは、エタノールで止めずに水と二酸化炭素まで分解してエネルギーを取り出している


ブドウ糖にエネルギーが蓄えられていることはわかったね。じゃあこのエネルギーのもとはなんだろう?これはブドウ糖の起源をたどってみるとわかるんだ。ブドウ糖を作る前のデンプンは植物からとってきたものだね。そして植物は光合成でデンプンを作っている。光合成は太陽の光を利用したシステムだ。ということは、ブドウ糖のエネルギーはもともとは太陽エネルギーなんだ。同じように植物の体や、それを食べた動物の体も光合成で作られた物質からできているので、植物の化石である石炭や、太古の微生物の死骸からできたという石油のエネルギーももとは太陽エネルギーなんだ。ぼくらの体だって太陽エネルギーでできている。地球上の多くのものは太陽のエネルギーで生きているんだ

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炭酸

ビールの醍醐味はなんといっても炭酸のシュワシュワ!日本酒が好きなシンキロウも日本酒が一杯目は必ずビール。あのシュワシュワがたまらない!炭酸の話は温室効果ガスの話水アカの話でも話したけど、その正体は二酸化炭素だ。コーラや炭酸水の炭酸ガスは後から封入しているんだけど、ビールやシャンパンのガスは自然にできたものを使っている。さっきのブドウ糖の発酵で二酸化炭素ができていたけど、これを使っているんだ。でもね、このシュワシュワが楽しめるのは発酵で発生するのが二酸化炭素だったからこそなんだ。もし、酸素や水素だったらこうはいかない。だって水に溶けないんだから。

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水に食塩を溶かすときなんかは水を温めていくとたくさん溶けるようになるんだけど、気体の場合は逆で冷やすほどよく溶けるようになる。ビールもコーラも暖かくなったら吹きこぼれるよね。これは温度が高くなると気体分子の運動が激しくなって空気中に飛び出していくからなんだ。それに圧力をかけるとさらにとける。これも蓋をあけるとプシュとガスが放出されるからわかるね。ビール一つとってもたくさんの化学が働いていることがわかるんだ


余談になるけど、ビールの歴史はとても古くて、古代エジプト時代から飲まれていたと言われている。その頃のビールはパンと果物の果汁から発酵させた代物で今のものとは違ったものだったみたい。今のビールの祖先は古代ローマ時代に今のドイツに住んでいたゲルマン人と呼ばれる人々が飲んでいたものだ。当時のローマ人にとっては自分たちが飲んでいる葡萄酒よりは劣ると歴史書に書かれている。ずっと時代は下って神聖ローマ帝国のころにはビールに混ぜ物をしてはいけないというビール純粋令が出されている。日本ではちょうど江戸幕府ができたころだね。当時のヨーロッパでは麦の生産量も相当低くく食糧事情も悪かったようだけど、それでもビールを作り続けた執念には頭が下がる