シンキロウの大人の化学

シンキロウによる化学雑記。普段化学に親しみのない方に身近にある化学から高尚な化学まで偏見を交えて伝えたい

UVカット剤の化学

このところ日差しがとても強く感じる。おかげで近くの緑地でピクニックしてたら日焼けしてしまった。いい機会なので今回はUVカット剤」を化学しよう

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UV (紫外線)

 

よく知られているように太陽光線から身体を守るために肌が黒くなるのが日焼けで、人体に備わった本来のUVカット法だ。日焼けの原因はもちろん太陽光線に含まれているUV (紫外線) だ。光は電磁波、かんたんに言うと電波の一種で、名前のとおり「波」としての性質を持っている。電磁波の波打つ回数はとても多くて、シンキロウがよく聴いているFMラジオの電波だと 1 秒間に約 8,020万回 (どの局かわかるかな?)、緑色の光だと 600 兆回!にもなる。この波ひとつの長さを「波長」といって、この波長によって種類が分かれる。

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電波や光は波長が短いほどエネルギーが大きくなる。赤外線の波長は約 700 ナノメートルよりも長く、目に見える可視光線は 700~400 ナノメートル、そしてUV は 400ナノメートルより短い。可視光線はエネルギーの小さい、つまり波長の長い順から赤、橙、黄、緑、青、紫色となる。UVは紫色の波長を超えているので超紫 = ウルトラバイオレット (Ultra Violet)  = UV という。日本語では紫外線 = 紫をはずれた光線だね。ちなみに赤外線は赤色の光よりも下なのでインフラレッド = IR という。


UVカット剤はUVを吸収してくれる

前に電子レンジの話水の話で書いたけど、分子は電磁波を吸収する。吸収された電磁波のエネルギーは、電子レンジのマイクロ波なら分子の回転エネルギーに、赤外線なら分子の振動エネルギーに変換される。これらにくらべて可視光線やUVのエネルギーはとても大きいので、分子の結合をつくっている電子が励起するエネルギーに相当する。電子が励起された分子はとても不安定になって、結合が切れたり他の分子と反応したりする。これが塗装の経年劣化や、生物の体のDNAやたんぱく質の破壊を引き起こすんだ


UVによる破壊を防ぐにはどうすればいいかというと、UVを吸収する物質でコーティングしてしまえばいい。そのために必要なのは

  1. UVを吸収する分子であり
  2. UVを吸収しても分解したり、他の分子と反応したりしない

ことだ


二重結合やベンゼン環をたくさん持つ有機分子酸化チタンなどの無機化合物のなかにはUVを吸収しても壊れにくいものがある。日焼けの黒くなる原因になるメラニンも二重結合をたくさん持つ有機分子なんだ。メラニンはUVを吸収して皮膚の細胞が破壊されるのを防いでいる。ただしUV以外にも可視光線も吸収しているので褐色~黒色に見える。ちなみに黒い物質または物体はあらゆる波長の可視光線を吸収していて、白い物質や物体はあらゆる波長の可視光線を反射している


でもね、UVカットをしたい理由は日焼けしたくないからだろう?ほかにも車のボンネットや家具なんかの日焼けを防止するためにもUVカット剤は使われているんだけど、元の色が変わるのは望んでいないだろう?だから黒いメラニンなんかと違ってUVカット剤にはできるだけ色がない方がいいよね。とするとUVは吸収するけど可視光線は吸収しない透明な物質である必要がある


UVを吸収したのはいいけど…

ここまででUVカット剤に不可欠な条件がいくつか出てきた

  1. UVを吸収し
  2. UVを吸収しても分解したり、他の分子と反応したりせず
  3. 可視光線を吸収しない透明なもの

これくらいで十分だろうか・・・いやちょっと待ってほしい。エネルギー保存の法則というものがあるのを知っているだろか?この世界ではエネルギーはありようを変えるだけでポッとあらわれたり消えたりすることはない。光を吸収した分子が分解したり、他の分子と反応したりするのは過剰なエネルギーが行き場を失っているからなんだ。UVカット剤も同じだ。UVを吸収しても分解しなければ、余分なエネルギーはどうなってしまうんだろうか?そこでもう一つ大切な条件として、
 4 吸収したエネルギーを安全な形で放出することができる

ことが重要なんだ


分解したり他の分子と反応せずにエネルギーを放出するには二つのやり方がある。

  1. 吸収したエネルギーをまた光として放出する 
  2. 吸収したエネルギーを分子の振動として少しずつ放出する

一つ目は蛍光と呼ばれる。蛍光塗料がよく知られているね。あれは吸収した光エネルギーを別の波長の光として放出しているからあんな変な色に見えるんだ。時計の夜光塗料なんかも同じようなものなんだけど蓄えた光エネルギーをゆっくりと放出する点が少し違う (厳密には燐光という)


二つ目は振動 = 熱だ。吸収した大きな光エネルギーを弱い熱エネルギーとして放出する。あまり熱くならなければ化学反応が起こったりはしない。よく使われているUVカット剤の多くはこの性質を利用しているみたいだ


今回は説明しなかったけど、さっき言った酸化チタンの場合吸収したUVエネルギーを水の分解に利用したりできるんだ。単なるUVカット剤であるだけでなく光触媒として利用できるのはおもしろいね


UVは浴びすぎると体に悪いけど、骨を作るのに大切なビタミンDを体内で作るには必要不可欠なんだ。適度に日差しを浴びて元気に夏を乗り切ろう