シンキロウの大人の化学

シンキロウによる化学雑記。普段化学に親しみのない方に身近にある化学から高尚な化学まで偏見を交えて伝えたい

還元水の胡散臭さを化学する

世にはびこる還元水に水素水にマイナスイオン水。最近マグネシウムの洗濯剤を見つけたんだけど、水に入れると反応して還元水ができるらしい。今回は還元水そして水素水という胡散臭い水を化学する


還元水

もしかしたらJIS (日本産業規格) あたりに定義があるのかもしれないけど、あくまで化学的に考えてみる。こういう商品が売れる背景には

 還元 = 体にいい ↔ 酸化 = 体に悪い

という思い込みが前提になっていると思う。実際にはそんなに単純な話じゃないんだけどね。とりあえず、まずは還元水を定義してみよう

  1.  還元(することができる)水 
  2.  還元(された)水


1. 還元することができる水

水には他の化学物質を還元するチカラなんてない。なので、もし還元できるとしたら化学では説明のつかない魔法の水だ。ただし、超高圧超・高温では超臨界水となって不思議な性質を示すんだけど、普通の環境ではありえない


2. 還元された水

これは定義するのが難しいんだけど、例えば酸化された炭素を二酸化炭素 CO2 と言うように、水を酸化された水素、つまり一酸化二水素と考えてみる。そうすると還元した場合、水素ガスが発生する。お?なにか良さそう?と思うかもしれない。水素が入った水、そう水素水だ。


水素水

少し前に大流行した水素水。どこかの女優さんは健康と美容のためお風呂の水にまで使っていたとか。でも残念ながら水素は普通の状態では水にはほとんど溶けないので水素水なんてものはありえない。ごくごく微量には溶けるけど健康にはまったく影響ないレベルだろう。むしろ他の成分のほうが健康には影響する可能性があるね。こんなものが流行ったのも

  水素 = 還元 → 還元 = 体にいい

という思い込みのせいだろう。でも仮に水素水が存在したとしてもそううまくはいかないんだ。


たしかに酸化された有機化合物は水素ガスで還元できる。ただし還元するためにはパラジウムやプラチナ化合物という触媒がいるんだ。両方とも高価な貴金属だね。これがないとまったく反応しない。それに還元されたものが体にいいという保証はない。還元が体にいいというのは思い込みに過ぎないんだ


マグネシウムから還元水

ついでにマグネシウム洗濯剤の効果についても考えてみる。使用法として、金属マグネシウムを水に入れると水酸化マグネシウムができて還元水になるとある


マグネシウムアルカリ土類金属という元素だ。水と反応すると水酸化マグネシウムと水素ガスができる。たしかに水は還元されている。でも水素ガスは空気中に逃げていくし、水酸化マグネシウムにも還元するチカラはない


それ以上に、金属マグネシウムは室温では水とほとんど反応しないんだ。熱湯を使えば激しく反応するけど、普通の水ではほとんど反応しない

 

以上から、還元水も水素水もマグネシウム洗濯剤もなんか胡散臭そうという結論になる