水を化学する
水、みず、water ー あまりに普通すぎて意識することは少ないけど化学的にはとてもすごい物質なんだ
水を化学する
水について書こうと思ったけど、一大テーマになりそうで気が遠くなる。とにかく特殊な物質なんだ。そしてその特殊さが地球に生命の誕生と反映をもたらしたしたといえる。今回はシンキロウが興味あることについて偏見を交えて書いてみようと思う
1. 沸点と融点が異常に高い
水が 摂氏100 度で沸騰して摂氏 0 度で氷になるのは常識だね。でも本当は逆で、摂氏温度 ℃ の方が沸騰する温度を 100 度とし、凍る温度を 0 度とすると決められているからなんだ。だからアメリカで使われている華氏温度 °F ではまったく違う温度になってしまい混乱する。サイエンスでは絶対温度 K (ケルビン) を使う。絶対温度零度はマイナス273.15 ℃。聖闘士星矢に出てきたアクエリアスのカミュが使ってたオーロラエクスキューションで到達できる温度である
話を戻そう。水の沸点と融点は異常に高い。異常にとはどういう意味なんだろう?理解するためにまず沸騰と凍結について考えてみよう。水は氷ー水ー水蒸気の三つの状態をとる。一般的には固体ー液体ー気体と呼ばれる。これは多くの物質でも同じである (固体や液体状態を持たないものも存在する)。
水は酸素原子に2個の水素原子がくっついた分子でエイチツーオー (H2O) ともいう。この水分子がお互いにくっついて固まった状態、これが固体、つまり氷だ。ガッチリくっついているから固い。氷を温めると水分子が振動しはじめる。ちなみに熱というのは分子や原子の振動のことだ。この振動が大きくなるとガッチリと固まっていた結合がゆるくなって水分子が動き回れるようになる。この状態が液体の水だ。さらに温めると水分子の振動はどんどん大きくなり、やがて分子同士がバラバラに飛んでいく。この状態が気体、水蒸気なんだ。固体から液体に変わる温度を融点または凝固点、液体から気体に変わる温度を沸点という
この三つの状態を決めているのは分子間の引力なんだ。普通の有機分子ではファンデルワールス力 (りょく) が主要な引力である。この力は分子の重さ (分子量) に応じて強くなる。つまり重い分子ほど沸点も融点も高くなるんだ。でもね、水分子の分子量では水の沸点と融点の異常な高さは説明できないんだ。周期表で同じ行にある炭素Cと水素からなるメタンCH4と窒素Nと水素からなるアンモニアNH3を比べてみると下のようになる
分子量 融点 沸点
メタン CH4 16 -182.5℃ -161.6℃
アンモニア NH3 17 -77.7℃ -33.3℃
水 H2O 18 0℃ 100℃
見ての通りメタンに比べてアンモニアは沸点・融点がぐっと高くなっており、水はさらに高いことが分かるね。この原因は水素結合なんだ。水分子は折れ曲がった形をしている。水素原子はプラスの電荷を持っていて、反対に張り出している電子 (青い粒) はマイナスの電荷を持っている。こんなふうに分子内でプラスとマイナスに別れた状態を分極っていう。だからもう一つの水分子が近づいてくると下の図の緑線のように電気的な引力でくっつこうとするんだ。これが水素結合なんだ。この力がとても強い。だから沸点と融点が高くなっているんだ
2. 比熱、潜熱が大きい
よく水は熱しにくく冷めにくいっていうよね。たとえば空のナベをガスコンロにかけるとすぐにチンチンに熱くなる。でも水を入れると中々に沸かない。これは金属に比べて水が温めにくいってことなんだ。ここで、比熱が重要になってくる。比熱は物質を1℃温めるのに必要な熱エネルギーの量。同じ温度上げるのにより多くの熱エネルギー、ガスコンロでいうと加熱時間が必要なんだ。この冷めにくい性質は地球環境の温暖化にとても役立っている。もし海が太陽が沈んですぐに冷めてしまうと生き物は夜のうちに凍えてしまう。
水が氷や水蒸気になるとき大量の熱エネルギーを吸収または放出するんだ。このエネルギーを潜熱っていう。簡単に言うと
氷が溶けるときに熱を吸収する (融解熱・凝固熱)
水蒸気が水になるときに熱を出す (蒸発熱・凝縮熱)
なので0度の水で冷やすより0度の氷で冷やすほうがよく冷えて、100度のお湯で温めるより100度の水蒸気で蒸すほうが効率が良くなるんだ。でもね言い方を変えるとお湯よりも水蒸気でヤケドするほうが危ないことを覚えておいてね
3. 温室効果
温室効果は地球温暖化の原因としてよく知られている。その代表物質として二酸化炭素CO2やメタンCH4がよく知られているけど、実は水蒸気も大きな原因の一つなんだ。二酸化炭素と水蒸気は赤外線を吸収する性質を持っている。吸収した赤外線のエネルギーは分子の振動に変わる。さっき言ったように、分子の振動 = 熱エネルギーなので熱くなるんだ。さらに比熱が大きいのでなかなか冷めない。だから温暖化は進んでいくんだ
4. いろんなものをよく溶かす
これはさっきの言ったように分極と水素結合が大きく効いているんだ。化学では似たものは似たものを溶かすと言われる。水は無機化合物。だから食塩みたいな無機化合物はよく溶かす。でもね有機化合物も溶かすことができるんだ。代表的なもの糖類やアミノ酸、タンパク質など。もうわかるよね。この地球で生命が誕生したのは水のおかげなんだよ
5. その他
・水の色
水の色は何色と聞かれたらどう答える?透明?ちがう。透明は色の名前じゃない。透明の反対は不透明。じゃあ何色?答えは水色。ふざけているのかと思われそうだけど、本当にあの水色なんだ。お風呂を溜めてみると少しわかる。それよりも海の色を見れば納得できるだろう。普通色の原因は分子の中の電子が絡んでるんだけど、水くらいの分子ではそれは期待できない。水の色は赤外線を吸収する分子の振動が関わっているんだ。あまり細かいことを言うとややこしくなるので、とにかく水は水色なんだ
・DHMO
ジハイドロジェン モノオキサイドの略。日本語でいうと一酸化二水素。OH2。つまり水。もちろん正式な名前じゃない
実はこれ、アメリカの学生が行った冗談のような調査なんだ。一般の人にDHMOは危険だと説明してどこまで騙されるかっていう調査。
・DHMOが多すぎると危ない…洪水
・DHMOがないのも危険…干ばつ
・犯罪者の尿には多量のDHMOが含まれている
などなど。面白いから調べてみてほしい
最後に化学では水という言葉にいくつかの用語を使う。それを紹介して終わりにする。
'υδωρ (hydor ヒュドール) 古代ギリシャ語
hydro- (ヒドロ 英語読みハイドロ) とつくのはこれがもと。カーボハイドレートなら炭水化物、ハイドロジェンなら水素 (hydro + gen = 水の素)
aqua (アクア) ラテン語
アクエアス・ソリューションで水溶液 (aqueous solution 水の溶液) 、化学とは関係ないけどアクアリウム (水族館)やアクエリアス (水瓶座) なんかも同じ。最後にアクエリアスに戻ってきたよ