リチウムイオン電池を化学する
リチウムイオン電池はいろんなところに使われている。でもなぜリチウムイオン電池っていうんだろう?
そもそも電池とは?
JIS (日本産業規格) あたりに正式な規格があるんだろうけど、ここでは化学電池の話をする。下に電池の模式図を描いたから見てほしい
この電池はボルタの電池とよばれていて最初に発明された電池なんだ。ボルタの電池は亜鉛 (Zn) 板と銅 (Cu) 板との間に薄めた硫酸を入れてある。亜鉛板と銅板を導線でつなぐと電流が流れる。みんな知っていると思うけど、電流が流れる = 電子が移動することだ。 そうすると移動するための電子などこかで発生しないといけない。それは図のように各金属板で起こっている化学反応から生み出されるんだ。
(正極または➕極) Zn → Zn2+ + 2e-
(負極または➖極) 2H+ + 2e- → H2
電流の向きは電子の流れる向きと反対なので、電子が出ていく亜鉛板を正極または➕極、銅板を負極または➖極と呼ぶことにする。亜鉛板からは亜鉛原子 Zn が電子 e- を出して硫酸中に溶けて亜鉛イオン Zn2+ になる。
反対に銅板では水素イオン H+ が電子をもらって水素分子になる。これは水素ガスがブクブクと発生するので見ててわかるんだ。いきなり水素イオンが出てきてあれっ?と思ったかもしれない。実はこの水素イオンは硫酸からできたんだ。なので➖極での反応を正しく書くと
(負極または➖極) H2SO4 + 2e- → H2 + SO4 2-
となる。水素分子はガスとして飛んでいくので、電解液中には亜鉛イオン Zn2+ と硫酸イオン SO4 2- が残る。この2つは硫酸亜鉛 ZnSO4 となり電気的に中性になる。
つぎにもう一つ別の電池を見てみる。これはボルタの電池に似た電池でダニエル電池という。水を張った水槽をイオンだけを通すことができる膜で仕切る。水槽の片方に硫酸銅を溶かして銅板を入れる。もう一方に硫酸亜鉛を溶かし亜鉛板を入れる。2枚の金属板を導線でつなぐと
(➕極) Zn → Zn2+ + 2e-
(➖極) Cu2+ + 2e- → Cu
のように反応が起こり電流が流れる。さっきのボルタ電池と同じように正しく書くと
(➕極) Zn + SO4 2- → ZnSO4 + 2e-
(➖極) CuSO4 + 2e- → Cu + SO4 2-
となる。正極に現れる硫酸イオン SO4 2- は負極の硫酸銅からできたものが膜を通して移動したものなんだ。これで電気的に中性になることがわかる。
リチウムイオン電池
いよいよリチウムイオン電池の話だ。市販されているリチウムイオン電池はコバルト酸リチウム LICO2 と炭素 C6 から構成されている。充電するときの➕極での反応を見ていこう
(正極または+極) LiCoO2 → Li+ + CoO2 + e-
コバルト酸リチウムは (Li+)(CoO2 -) と書ける。この状態ではコバルト酸イオンは負電荷を帯びているけど、反応が起こるとコバルト原子から電子が出て、コバルト原子は3価から4価に酸化されてニ酸化コバルトCoO2となる。
問題は➖極だ。多くの解説を見ていると、下のようにあっさりと反応式が書かれていることが多い
(負極または−極) Li+ + C6 + e- → LiC6
C6 というのは炭素の構造体で黒鉛を指している。炭素原子が六角形の網目状に無限に繋がったもので、その単位構造がC6なんだ。じゃあ LiC6はどんなものなんだろうか?これがこの電池がリチウムイオン電池という名前の由来なんだ。さっきのダニエル電池を思い出してほしい。負極では銅イオンが電子をもらって銅原子になっている。でもね、リチウムイオン電池ではリチウムイオンはリチウム原子にはならないんだ。どういうことかというとLiC6は(Li+)(C6 -) なんだ。つまり正極から回路を伝ってはるばるやってきた電子は炭素C6に与えられる。そこにリチウムイオンがやってくることで電気的に中性になるんだ。結果としては正極と負極の間でリチウムイオンが動いているだけ。だからリチウムイオン電池なんだ。
リチウムイオン電池には多くの化学が働いている。シンキロウは他にも
正極の物質 (正極活物質)
負極の物質 (負極活物質)
電解液
について語りたいんだけど、それはまたいつか