シンキロウの大人の化学

シンキロウによる化学雑記。普段化学に親しみのない方に身近にある化学から高尚な化学まで偏見を交えて伝えたい

化学は「価電子」のサイエンスである

コロナのために交代勤になって平日朝に更新してる。さて化学は物質や化学反応をあつかう学問だ。でも物理学でも生物学でも物質をあつかうし、反応も対象になっている。じゃあそもそも化学ってなんなのだろう?


化学は「価電子」のサイエンス

以前のブログ (元素の話①錬金術が見つけた元素) で話したように化学は元素の上に立つサイエンスだ。元素は原子と言いかえてもいいんだけど、この原子には個性があるから同じ個数の原子を集めても種類が違うとまったく違ったものができてしまう。例えば、水素原子を 2 個と酸素原子を 1 個集めると水になるけど、塩素原子 2 個とマグネシウム原子 1 個では塩化マグネシウムになってしまう

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もう一つの見方として化学は価電子のサイエンスと捉えることもできる。下に示した炭素原子を見てほしい。原子は粒みたいなものなんだけど、その中では真ん中に原子核があって周りを 6 個の電子が回っている。電子のうち 2 個は内側の円を回り、残りは外側の円を回っている。この外側の電子は「価電子」と呼ばれていて、原子の性質や化学反応を決定しているんだ


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化学では原子核と価電子以外の電子はほとんど意識されない。だからエタノールも実際には左下のような原子の粒がくっついた構造なんだろうけど、化学では真ん中のように見えもしない結合の線がメインになり、さらには右下のように水素原子と炭素原子も消えて線だけで表される。実際には存在しない「輪郭」だけで絵画が描けるのと似てなくもない

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原子の重さのほとんどは原子核の重さで、電子はとても軽い。でもその電子が化学では大切な働きをしているのは不思議なことだね

 

水アカ落しを化学する

ポットの中、おふろの鏡、キッチンのシンク・・・どれも放っておくと水アカだらけになってしまう。だから水アカ落としをするんだけど、あれはいったいどう効いているんだろう?そういうわけで今日は水アカ落としを化学する


水アカの正体はミネラル

水アカの正体はミネラルつまり金属イオンの化合物なんだ。水に溶け込んでいる主な金属はナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムのイオンだろう。これらに相方となる陰イオンが存在している。代表的な陰イオンは塩化物イオンや炭酸イオン、炭酸水素イオンかな。こいつらが水の中をフラフラとしてるんだけど、カルシウムやマグネシウ厶と炭酸水素イオンのペアはわりと水に溶けにくいので沈んでくるんだ。これが水アカの正体だ


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水アカは酸で溶かす

水アカは酸で溶かせる。さっき言った炭酸水素イオンは炭酸の仲間なんだ。炭酸は知ってのとおりビールやサワー (ここでコーラを出さないのが大人の化学だ) のシュワシュワ。実はこれ二酸化炭素 CO2の別名なんだ。二酸化炭素は水に溶けると水分子とくっついて炭酸になるんだ。水素イオンが抜けやすいから弱い酸性を示す

 

酢酸という酸がある。お酢に含まれている酸っぱい成分だ。これは炭酸に比べてずっと強い酸だ。なので、水アカに酢酸を反応させると炭酸水素イオンと酢酸が置き換わってしまう。専門的には弱酸遊離という。置き換えられた炭酸水素イオンは二酸化炭素になって飛んでいってしまう


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残った酢酸とカルシウムイオンやマグネシウムイオンの化合物カルボン酸塩は水に溶けやすいので水アカは落ちるんだ。さらに強い塩酸を使えばもっと早く溶かせるんだけど、ステンレス容器なんかだと錆びやすくなってしまうんだ。シンキロウも大学で研究していたときにやらかしたことがあるよ・・・ステンレスは酸や塩化物イオンに弱いからね

 

クエン酸の秘密ワザ「キレート」

水アカを落としには酢酸よりもクエン酸がよく使われる。クエン酸は果物にたくさん含まれている有機化合物でレモンの酸っぱさの素だ。


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クエン酸は酢酸みたいに臭くないうえにキレート効果でカルシウムイオンやマグネシウムイオンを溶かしやすくする働きがあるんだ。もともとギリシャ語でカニのハサミを意味する言葉から来てるんだ。その名の通り2箇所以上の点でハサミのようにイオンをガッチリと挟み込んで溶かしてしまう


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他にキレートを応用した技術として、電子回路の洗浄液がある。電子回路はプラスチックの板に貼りつけた薄い銅箔をエッチングして作るんだけど、このとき残った銅イオンを洗い流さないと回路がショートしてしまう。そこでクエン酸で銅イオンをガッチリとキレートして洗い流しているんだ。精密な電子回路を作るには他の金属イオンが入っていてはいけないのですごく純度の高いものが使われているんだよ

 

アブラの酸化と還元

酸化されたアブラは健康に悪い ー 普段健康に気を使っていない人でもよく知っていると思う。じゃあ酸化されたアブラってどんなものなの?今日はアブラの酸化と還元を化学する


アブラ、油、脂、脂肪

アブラは漢字でまたはと書く。一般に油は常温で液体のものを、脂は固形のものを指すことが多い。「油」という漢字には液体を表すサンズイ偏があるしね。また油は植物由来で、脂は動物由来のものが多い。こちらは「脂」という漢字に肉を表す「月(ニクヅキ)」があることからもわかる。こうした食べられるアブラは化学的には脂肪という物質に分類されるんだ。脂肪にはたくさんの種類があるんだけど、その性質を決めるのは脂肪酸だ。脂肪酸はどれも COOH という構造を持つカルボン酸の仲間なんだ。脂肪酸の一例としてステアリン酸C18H35COOHを見てみよう。ステアリン酸は牛肉の脂肪に多く含まれている脂肪酸

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脂肪は3個の脂肪酸グリセリンと言われるアルコールが結合した分子だ。カルボン酸とアルコールが結合した構造を持つ分子はエステルとも呼ばれる。いろんな脂肪酸グリセリンと結合することで脂肪となっている。脂肪酸は他にもいろんな分子と結合して体の中で役に立っているんだ

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アブラの酸化

脂肪は酸化にとても弱い。そして酸化された脂肪は体に悪いと言われる。じゃあ酸化された脂肪ってどんな構造になっているのか?体内での酸化は酸素や酵素によって起こっている。酸化のされ方によってできる化合物の化学構造は変わるんだ。脂肪酸のひとつであるリノール酸について見てみよう。リノール酸はさっき見たステアリン酸と似た構造なんだけど、2個の二重結合があることが違っている点だ。

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リノール酸が酸化されたら下に示したような化合物ができるんだ。どれもーOーOーHがくっついていて過酸化物と呼ばれる。過酸化物はそれ自身が強い酸化力を持っていて体の中で細胞を傷つけたりする。また過酸化物は高い濃度になると爆発する危険もある。まあ普通に脂肪が酸化されたくらいじゃそんなに濃くはならないから心配しなくていいけどね

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酸化されたアブラを還元する

酸化された脂肪酸は酸化力を持っているから体の中の細胞を傷つける。なによりも元の脂肪酸とは違う化合物なので体の中で正しく働かなくなる。そこで還元する必要が出てくる。脂肪酸の還元には、ビタミンE、ポリフェノール、フラボノイド、カロテノイドなどが効く。でもどれでも使えるわけじゃないんだ。

  • ビタミンE、ポリフェノール → 過酸化物 A B C D
  • フラボノイド → 過酸化物 C D
  • カロテノイド → 過酸化物 C D E F

となっている。かたよらずまんべんなく栄養を取るのが大切なことが分かるね。ちなみにリノール酸の酸化と還元については

 

加藤俊治、仲川清隆、"紫外線を浴びたら何を食べる?酸化ストレスと抗酸化食品"、現代化学、2020年1月号、34-37

 

を参考にさせてもらった。

 

現代化学 2020年 03 月号 [雑誌]

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以前の記事 (還元水の胡散臭さを化学する) で述べたけど、触媒を使わずに水素ガスだけでは有機化合物を還元することはできない。でももしも水素ガスだけで還元できるとしたら?リノール酸の過酸化物が水素ガスで還元されたときにできる化合物は下のような構造になるf:id:shinquirau:20200405191824j:image

さっき見たステアリン酸だ。ビタミンEなんかを使った場合にはーOーOーHが取れる (本当は二重結合を位置や形も変わるんだけど) だけだけど、水素ガスで還元した場合には二重結合に水素が付加して単結合になってしまうんだ。リノール酸じゃなくなってしまう。

 

だから「還元=体にいい」と言うのはまったくの誤解だと言っていい

これが今回の結論

 

 

除菌剤を化学する

このところコロナウイルスの蔓延のために除菌剤が薬局の店頭から消えてしまっている。ところで除菌剤って何をしてるのだろうか?今日は塩素系除菌剤を化学する


主成分は次亜塩素酸ナトリウム

塩素系除菌剤の主成分は次亜塩素酸ナトリウムだ。化学式で書くとNaClO、英語ではソディウム・ハイポクロライト (sodium hypochlorite) という。ちなみにソディウムは英語でナトリウムのことだ。

 

次亜塩素酸ナトリウムのいちばんの特徴は強い酸化力だ。その酸化力を利用した商品にみんなもよく知っているハイターがある。こいつは黄ばみや茶しぶを根こそぎ落とす優れものだ。けどあまりに強力なので間違って使うと服の色まで落ちてしまう困りものでもある。ところで除菌剤の話なのになぜ黄ばみ落しの話をしているのか疑問に思うかもしれない。実は脱色も除菌も次亜塩素酸ナトリウムの強い酸化力によるものなんだ。黄ばみや茶しぶそして服の色の主成分は有機化合物。それに細菌やウイルスも有機化合物からできている。次亜塩素酸ナトリウム有機化合物を酸化して分解するんだ

 

ベータカロチンの脱色実験

次亜塩素酸ナトリウムの酸化力を理解するために実験をしてみた。10 グラムのハイターを水で薄めニンジンの皮を浸してみた。左の写真のように浸けてすぐは赤色だったけど、2時間半後には右の写真のように色が消えてダイコンの皮みたいになってしまった

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ニンジンの色の主成分はベータカロチンという有機化合物だ。黄色野菜にたくさん含まれていてビタミンAの元になる。この化合物は炭素原子と水素原子だけからできていていて、たくさんの二重結合 C=C がある。ベータカロチンの赤っぽい色はたくさんある二重結合が作り出しているんだ。だから、色が消えるということは二重結合がなくなったことを意味するんだf:id:shinquirau:20200401015341j:image

次亜塩素酸ナトリウムによる有機化合物の分解反応は複雑で [1]、論文によってはあまり研究されていないと書かれている [2]。ここでは教科書に載っている次亜塩素酸と二重結合の代表的な反応を挙げておくね

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上の反応では二重結合に塩素原子がくっついて単結合になってしまっている。これがベータカロチンの脱色の原因なんだ。この反応のあと塩素原子がくっついたところからさらに分解されて有機化合物は壊されてしまう。これだけ強い反応性なら細菌やウイルスを作っている有機化合物が壊されてしまうことも納得できると思う

 

ハイターには水酸化ナトリウムが入っているから目に入れたりしないようにね。あと酸と混ぜると有毒な塩素ガスが発生するのでこちらも注意を

 

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[1] 畠山兵衛, "漂白過程におけるリグニンの挙動," 紙パ技協会誌 1967, 20 (11), 586
[2] 金澤 等, "漂白剤は有色物質をどのように分解するのか?次亜塩素酸ナトリウムによるアゾ染料の分解," 繊維と工業 2005, 61, P307

 

続・水を化学するー水は電気を流すかー

よく水に濡れて電撃を喰らうというパターンがある。今日は水は電気を流すのか?という話

 

水は電気を流すか?

結論を言うと水は電気を流さない。でも漫画なんかでは水に濡れて感電することが多いけど、これはウソなの?たしかに水だけでは電気を流さない。でも水にあるものを溶かすと電気が流れるようになるんだ。それはイオンだ。イオンになる物質を水に溶かすとプラスの電気を持つ陽イオンとマイナスの電気を持つ陰イオンに分かれる。たとえば食塩 (塩化ナトリウム)  NaCl の場合

              NaCl   →   Na+   +   Cl-

となる。実際にはそれぞれのイオンは水分子で取り囲まれることで安定化するんだ

 

水道水を入れた容器に2枚のアルミホイルを浸けて電池につないでみても電気は流れない。ここに食塩を入れてみると電気が流れるようになる。アルミホイルの間にはイオンが移動して電気が流れるんだ。これは食塩とよく似たグラニュー糖を溶かしても電気は流れないことからわかる。グラニュー糖、つまり砂糖はイオンにならないからね
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下の動画を見てほしい。食塩水に乾電池2本を直列につないで電気を流したんだ。よく見ると右側のアルミホイルでなにか起こっているようだね。何が起こっているんだろう?

 

水の電気分解

これは水が電気で分解されているんだ。右側のアルミホイルは陰極つまりマイナス極なんだ。ここには電子が集まってくる。集まった電子は水に与えられて還元されて水素ガス H2 が発生している。

   2 H2O   +   4 e-   →   2 OH-   +   H2

これは電解水還元水を作るときに使う反応だ。ただし、化学的には還元水電解水なんてものは胡散臭さいものだけどね。水素ガスは集めたら爆発させることもできるけど危険だからやめたほうがいい


左側のアルミホイルは陽極つまりプラス極で塩素が発生している。教科書では酸素が発生するはずなんだけど、水よりも酸化されやすい塩化物イオン Cl- が塩素ガス Cl2 になる

      2 Cl-   →   Cl2   +   2 e-

ここでできた電子 e- が導線を流れて電気が流れるようになるんだ。食塩のかわりに水酸化ナトリウムを溶かし、金やプラチナをプラス極に使うと酸素が発生するんだ

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こうした性質は水がいろんなものを溶かすからこそ起こりうるんだ。溶けたものとその量によって軟水・硬水に分かれるんだ。
軟水・・・普通の水。日本の水はほとんどこれ
硬水・・・カルシウムイオンやマグネシウムイオンなんかのミネラルが多く溶け込んでいる水。大陸の水はこれが多い。飲み辛い
お茶とか淹れるなら軟水がいいね


精製水や超純水またはイオン交換水という水もある。どれもとてもきれいでほとんど何も溶けていない。でも飲むとお腹に良くないみたいだ。何も溶けていないせいで体の中の成分を溶かしだしてしまうようだ。単純にキレイならいいってものじゃないね

還元水の胡散臭さを化学する

世にはびこる還元水に水素水にマイナスイオン水。最近マグネシウムの洗濯剤を見つけたんだけど、水に入れると反応して還元水ができるらしい。今回は還元水そして水素水という胡散臭い水を化学する


還元水

もしかしたらJIS (日本産業規格) あたりに定義があるのかもしれないけど、あくまで化学的に考えてみる。こういう商品が売れる背景には

 還元 = 体にいい ↔ 酸化 = 体に悪い

という思い込みが前提になっていると思う。実際にはそんなに単純な話じゃないんだけどね。とりあえず、まずは還元水を定義してみよう

  1.  還元(することができる)水 
  2.  還元(された)水


1. 還元することができる水

水には他の化学物質を還元するチカラなんてない。なので、もし還元できるとしたら化学では説明のつかない魔法の水だ。ただし、超高圧超・高温では超臨界水となって不思議な性質を示すんだけど、普通の環境ではありえない


2. 還元された水

これは定義するのが難しいんだけど、例えば酸化された炭素を二酸化炭素 CO2 と言うように、水を酸化された水素、つまり一酸化二水素と考えてみる。そうすると還元した場合、水素ガスが発生する。お?なにか良さそう?と思うかもしれない。水素が入った水、そう水素水だ。


水素水

少し前に大流行した水素水。どこかの女優さんは健康と美容のためお風呂の水にまで使っていたとか。でも残念ながら水素は普通の状態では水にはほとんど溶けないので水素水なんてものはありえない。ごくごく微量には溶けるけど健康にはまったく影響ないレベルだろう。むしろ他の成分のほうが健康には影響する可能性があるね。こんなものが流行ったのも

  水素 = 還元 → 還元 = 体にいい

という思い込みのせいだろう。でも仮に水素水が存在したとしてもそううまくはいかないんだ。


たしかに酸化された有機化合物は水素ガスで還元できる。ただし還元するためにはパラジウムやプラチナ化合物という触媒がいるんだ。両方とも高価な貴金属だね。これがないとまったく反応しない。それに還元されたものが体にいいという保証はない。還元が体にいいというのは思い込みに過ぎないんだ


マグネシウムから還元水

ついでにマグネシウム洗濯剤の効果についても考えてみる。使用法として、金属マグネシウムを水に入れると水酸化マグネシウムができて還元水になるとある


マグネシウムアルカリ土類金属という元素だ。水と反応すると水酸化マグネシウムと水素ガスができる。たしかに水は還元されている。でも水素ガスは空気中に逃げていくし、水酸化マグネシウムにも還元するチカラはない


それ以上に、金属マグネシウムは室温では水とほとんど反応しないんだ。熱湯を使えば激しく反応するけど、普通の水ではほとんど反応しない

 

以上から、還元水も水素水もマグネシウム洗濯剤もなんか胡散臭そうという結論になる 

温室効果ガスを化学する

ここ最近の異常な気候。原因は地球温暖化にあると言われる。今日は温暖化の根源とされる温室効果ガスを化学する

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地球温暖化現象

ここ最近、大きな台風が襲ってきたり、夏がひどく暑くなったり、逆に冬が暖かくなったり、海水面が上昇したりと環境が大きく変化している。これは地球が温暖化しているためと言われている。実は気候の変動自体は地球ができてからずっと続いているんだ。例えば恐竜のいた時代はとても暖かかったらしいし、その次のマンモスのいた時代はとても寒かったらしい。でもここ 100 年間の気温の上がり方は異常なんだ。気温が上がり始めたときと産業革命の頃が大体同じだったので、石炭や石油の大量消費と関連付けられるようになったんだ。シンキロウも人間の活動が大いに関係していると考えているけど、一方では自然現象だと考えると人たちもいるんだ


温室効果

温暖化をもたらしたのは温室効果だ。英語ではグリーンハウス効果 (greenhouse effect) という。植物園の温室や畑のビニールハウスを思い出してもらうといいかな。透明か半透明の材質で囲いを作って太陽熱やボイラーの熱逃さずに蓄えて暖かくするんだ。でも地球には屋根も壁もないのになぜ温室効果なんて起こるんだろう?

 

その原因の一つとして考えられているのが空気中の二酸化炭素 CO2 だ。ニュースなんかでは温室効果の主犯のように扱われているね。2019年にはグレタ・トゥンベリさんが注目を集めていたね。でもなんでCO2が熱を蓄えるのかわかるかな?これが今日の化学なんだ


CO2と温室効果

まず要点を書き出すね

  1. 温められた物体は赤外線 (熱線) を出す
  2. CO2は赤外線を吸収する
  3. 吸収された赤外線エネルギーは熱になる
  4. CO2が熱を蓄えて気温が上がる

温められた物体は赤外線 (熱線) を出す

太陽の光は地上にまんべんなく降り注いでいる。これを書いている土曜の昼下がりもうららかな日差しが降り注いでいる。その光の中には紫外線や可視光線そして赤外線が含まれている。赤外線は温められた物体からも発生している。熱いホットプレートに手を近づけると熱く感じるだろう?これは赤外線のためなんだ。この現象は黒体放射っていう。温度によって赤外線の種類が変わるのでサーモグラフィなんかに使われているね


ふつう物体から発射された赤外線は宇宙に逃げていってしまう。冬のよく晴れた朝はすごく冷えることがあるだろう?これは放射冷却といって空に何もないとき地表の熱つまり赤外線が宇宙に逃げていくから冷えるんだ


CO2は赤外線を吸収する

CO2は赤外線を吸収する。どうやって吸収するのかを見ていこう。下の図を見てほしい。空気を化赤外線吸収スペクトル装置で測定したときのデータだ。下に数値が書いてあるけど、赤外線のエネルギーと思ってほしい。2300 cm-1 あたりにある二本のツノ、これがCO2が吸収した赤外線のエネルギーなんだ

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CO2 分子は下の図のように酸素原子と炭素原子が直線的には二重結合でつながった構造をしている。化学結合はバネのようにイメージされることが多いんだけど、このバネは特定の赤外線エネルギーを吸収して伸び縮みするんだ。多くの分子も吸収するんだけど、CO2の場合吸収が強くて排出量が莫大だから温室効果の原因とされているんだf:id:shinquirau:20200321152755j:image

CO2 が熱を蓄えると気温が上がる

吸収した赤外線エネルギーは分子の振動に変化する。分子の振動エネルギー = 熱エネルギーだ。空気中では分子同士がぶつかり合って他の分子に熱を与えていく。寒い部屋に暖かい空気を入れてもすぐに寒くなるけど、それは暖かい空気が冷たい空気に熱を与えているからなんだ。逆に言うと冷たい空気は少し温まっている。さらにCO2 は赤外線を吸収するのでどんどん空気ば熱くなる、温室効果

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CO2 は本当に困ったものだけど、実は他にも強力な助っ人がいる。さっきの赤外線吸収スペクトルを見ると3400 cm-1 に大きな谷がある。これ、実は水分子の吸収なんだ。水蒸気は温室効果ガスなんだ。だから水滴でできた雲がある日には放射冷却が起こらないんだ


でもある程度は温室効果ガスが存在しないと地球は夜になると冷えてしまう。地表の温度は20~30℃だけど、宇宙空間の温度は約-270 ℃。毎晩凍りつくようでは地球に生命は誕生しなかっただろうね