アブラの酸化と還元
酸化されたアブラは健康に悪い ー 普段健康に気を使っていない人でもよく知っていると思う。じゃあ酸化されたアブラってどんなものなの?今日はアブラの酸化と還元を化学する
アブラ、油、脂、脂肪
アブラは漢字で油または脂と書く。一般に油は常温で液体のものを、脂は固形のものを指すことが多い。「油」という漢字には液体を表すサンズイ偏があるしね。また油は植物由来で、脂は動物由来のものが多い。こちらは「脂」という漢字に肉を表す「月(ニクヅキ)」があることからもわかる。こうした食べられるアブラは化学的には脂肪という物質に分類されるんだ。脂肪にはたくさんの種類があるんだけど、その性質を決めるのは脂肪酸だ。脂肪酸はどれも COOH という構造を持つカルボン酸の仲間なんだ。脂肪酸の一例としてステアリン酸C18H35COOHを見てみよう。ステアリン酸は牛肉の脂肪に多く含まれている脂肪酸だ
脂肪は3個の脂肪酸とグリセリンと言われるアルコールが結合した分子だ。カルボン酸とアルコールが結合した構造を持つ分子はエステルとも呼ばれる。いろんな脂肪酸がグリセリンと結合することで脂肪となっている。脂肪酸は他にもいろんな分子と結合して体の中で役に立っているんだ
アブラの酸化
脂肪は酸化にとても弱い。そして酸化された脂肪は体に悪いと言われる。じゃあ酸化された脂肪ってどんな構造になっているのか?体内での酸化は酸素や酵素によって起こっている。酸化のされ方によってできる化合物の化学構造は変わるんだ。脂肪酸のひとつであるリノール酸について見てみよう。リノール酸はさっき見たステアリン酸と似た構造なんだけど、2個の二重結合があることが違っている点だ。
リノール酸が酸化されたら下に示したような化合物ができるんだ。どれもーOーOーHがくっついていて過酸化物と呼ばれる。過酸化物はそれ自身が強い酸化力を持っていて体の中で細胞を傷つけたりする。また過酸化物は高い濃度になると爆発する危険もある。まあ普通に脂肪が酸化されたくらいじゃそんなに濃くはならないから心配しなくていいけどね
酸化されたアブラを還元する
酸化された脂肪酸は酸化力を持っているから体の中の細胞を傷つける。なによりも元の脂肪酸とは違う化合物なので体の中で正しく働かなくなる。そこで還元する必要が出てくる。脂肪酸の還元には、ビタミンE、ポリフェノール、フラボノイド、カロテノイドなどが効く。でもどれでも使えるわけじゃないんだ。
- ビタミンE、ポリフェノール → 過酸化物 A B C D
- フラボノイド → 過酸化物 C D
- カロテノイド → 過酸化物 C D E F
となっている。かたよらずまんべんなく栄養を取るのが大切なことが分かるね。ちなみにリノール酸の酸化と還元については
加藤俊治、仲川清隆、"紫外線を浴びたら何を食べる?酸化ストレスと抗酸化食品"、現代化学、2020年1月号、34-37
を参考にさせてもらった。
以前の記事 (還元水の胡散臭さを化学する) で述べたけど、触媒を使わずに水素ガスだけでは有機化合物を還元することはできない。でももしも水素ガスだけで還元できるとしたら?リノール酸の過酸化物が水素ガスで還元されたときにできる化合物は下のような構造になる
さっき見たステアリン酸だ。ビタミンEなんかを使った場合にはーOーOーHが取れる (本当は二重結合を位置や形も変わるんだけど) だけだけど、水素ガスで還元した場合には二重結合に水素が付加して単結合になってしまうんだ。リノール酸じゃなくなってしまう。
だから「還元=体にいい」と言うのはまったくの誤解だと言っていい
これが今回の結論