除菌剤を化学する
このところコロナウイルスの蔓延のために除菌剤が薬局の店頭から消えてしまっている。ところで除菌剤って何をしてるのだろうか?今日は塩素系除菌剤を化学する
主成分は次亜塩素酸ナトリウム
塩素系除菌剤の主成分は次亜塩素酸ナトリウムだ。化学式で書くとNaClO、英語ではソディウム・ハイポクロライト (sodium hypochlorite) という。ちなみにソディウムは英語でナトリウムのことだ。
次亜塩素酸ナトリウムのいちばんの特徴は強い酸化力だ。その酸化力を利用した商品にみんなもよく知っているハイターがある。こいつは黄ばみや茶しぶを根こそぎ落とす優れものだ。けどあまりに強力なので間違って使うと服の色まで落ちてしまう困りものでもある。ところで除菌剤の話なのになぜ黄ばみ落しの話をしているのか疑問に思うかもしれない。実は脱色も除菌も次亜塩素酸ナトリウムの強い酸化力によるものなんだ。黄ばみや茶しぶそして服の色の主成分は有機化合物。それに細菌やウイルスも有機化合物からできている。次亜塩素酸ナトリウムは有機化合物を酸化して分解するんだ
ベータカロチンの脱色実験
次亜塩素酸ナトリウムの酸化力を理解するために実験をしてみた。10 グラムのハイターを水で薄めニンジンの皮を浸してみた。左の写真のように浸けてすぐは赤色だったけど、2時間半後には右の写真のように色が消えてダイコンの皮みたいになってしまった
ニンジンの色の主成分はベータカロチンという有機化合物だ。黄色野菜にたくさん含まれていてビタミンAの元になる。この化合物は炭素原子と水素原子だけからできていていて、たくさんの二重結合 C=C がある。ベータカロチンの赤っぽい色はたくさんある二重結合が作り出しているんだ。だから、色が消えるということは二重結合がなくなったことを意味するんだ
次亜塩素酸ナトリウムによる有機化合物の分解反応は複雑で [1]、論文によってはあまり研究されていないと書かれている [2]。ここでは教科書に載っている次亜塩素酸と二重結合の代表的な反応を挙げておくね
上の反応では二重結合に塩素原子がくっついて単結合になってしまっている。これがベータカロチンの脱色の原因なんだ。この反応のあと塩素原子がくっついたところからさらに分解されて有機化合物は壊されてしまう。これだけ強い反応性なら細菌やウイルスを作っている有機化合物が壊されてしまうことも納得できると思う
ハイターには水酸化ナトリウムが入っているから目に入れたりしないようにね。あと酸と混ぜると有毒な塩素ガスが発生するのでこちらも注意を
[1] 畠山兵衛, "漂白過程におけるリグニンの挙動," 紙パ技協会誌 1967, 20 (11), 586
[2] 金澤 等, "漂白剤は有色物質をどのように分解するのか?次亜塩素酸ナトリウムによるアゾ染料の分解," 繊維と工業 2005, 61, P307