シンキロウの大人の化学

シンキロウによる化学雑記。普段化学に親しみのない方に身近にある化学から高尚な化学まで偏見を交えて伝えたい

除菌剤とリンスの化学

以前のブログ (手洗いを化学する) で手洗いについて徒然なるままに書いた。今回は除菌剤として有名な塩化ベンザルコニウムと髪をトリートメントするリンスの関係について化学する


塩化ベンザルコニウムと塩化ベンゼトニウム

塩化ベンザルコニウムと塩化ベンゼトニウム。それぞれオスバンやマキロンに含まれている代表的な除菌剤だ。この二つの物質は図のような分子構造を持っている。両方とも炭素原子と酸素原子からなる長いヒゲとプラスの電荷を持った有機化合物だ。窒素原子にあるプラス電荷を中和するために塩化物イオンを引き連れている。だから両方とも「塩化〜」と言うんだ。模式的にプラスの電荷を持っている窒素原子付近を青い丸で、有機部位を棒状に描くことができる。電荷を持つ部分は水やイオンに親和しやすく「親水基」と呼び、有機部位は水を弾き有機化合物と親和しやすいので「疎水基」と呼ぶ。

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こいつらが細菌を駆逐する機構はこうだ。細菌の表面はマイナスの電荷を帯びている。これは構成成分である糖タンパク質の表面に陰イオン性の置換基 (有機分子中のグループ) が存在するからだ。こいつらが細胞表面で大切な働きをしているんだ。ここに塩化ベンザルコニウムを入れると、プラスの電荷を持つ部分が細胞にくっついて取り囲んでしまう。そうすると細胞は外界と隔絶されてしまって栄養を取り入れたりすることができなくなっていずれは死んでしまうんだ。これが塩化ベンザルコニウムや塩化ベンゼトニウムの除菌機構だ。こういったプラスの電化を持つ部分と長い有機部位内をもつ化学物質を陽イオン界面活性剤という。別名を逆性石けんともいう

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逆性石けん

普通の石けんの主成分は陰イオン界面活性剤。手洗いを化学するでも書いたけど、長い有機部位をもつカルボン酸やスルホン酸のナトリウム塩が代表的な物質だ。下にはカルボン酸のナトリウム塩を示した。電荷がある部分がマイナスであるところがさっきの塩化ベンザルコニウムとは違っているね

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有機化合物、たとえばアブラが浮いている水に石鹸を入れるとアブラに石けんの有機部位がくっついて取り囲んでいく。ぐるっと取り囲むと周りは水に親和するマイナス電荷を持っているので水に分散していく。このかたまりをミセルと言って、アブラが分散して白く濁った状態を乳化という。

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石鹸がマイナス電荷を持っているのに対して陽イオン界面活性剤はプラス電荷を持っているので逆性石けんと言うんだね。でも石けんの代わりに使われることはないので洗浄効果はそんなにないんだろう。あまり泡立たないし。


石けんと逆性石けんを混ぜるとお互いのイオンが会合してしまって界面活性剤としての効果がなくなってしまう。やってみるとわかるよ

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リンス、ヘアーコンディショナー

 

さっきから泡立たないとかやってみるとわかるとか書いたけど、こいつこのご時世に貴重な除菌剤で遊んでるのか?って思ったかもしれない。でも逆性石けんはオスバンやマキロンだけじゃなく、いつもお風呂で使っているリンスやコンディショナーの主成分でもあるんだ。シャンプーで頭を洗ったあと、髪の毛の表面の汚れが取れてキシキシするよね。これは陰イオン界面活性剤で髪のキューティクルが開いているからなんだって。でも髪の毛も細胞と同じでマイナス電荷を帯びているので、リンスを使うと陽イオン界面活性剤が表面には吸着してコーティングしてくれるんだ。このおかげで髪の毛同士が絡みにくくなり静電気も抑えられる。同じように逆性石けんは衣類の繊維の保護にも使われているらしい。通常見ている世界では除菌もリンスもまったく繋がりのないものだけど、化学から見ると基本は同じなのが面白いよね


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参考

日本界面活性剤協会